きっかけ

「半農半X」で農業に挑戦 俳優・工藤阿須加さん

俳優の工藤阿須加(あすか)さん(31)が昨年から農業を始め、多忙な俳優業との「二足のわらじ生活」を送っている。かつて農業大で学んだこともあり、以前から農業に携わりたかったという工藤さんに、畑仕事にかける思いや、肌で感じた農業にまつわる課題などを聞いた。

農業を始めた工藤阿須加さん。俳優業と両立しながら、野菜を育てる(土谷耕二撮影)
農業を始めた工藤阿須加さん。俳優業と両立しながら、野菜を育てる(土谷耕二撮影)

週に1回、畑に通って農業へ向き合う

まだ暑さが残っていた9月上旬。山梨県北杜市にある工藤さんの畑を訪ねると、工藤さんが額に汗をにじませて秋冬野菜を植え、防虫ネットを張っていた。

「この1列は全部白菜ですね。手前はオレンジ白菜、奥はミニ白菜」。何を育てているのかと問うと、瞳をいっそう輝かせ、記者に説明してくれた。

昨年から畑を数区画、借りる形で農業を始めた。年に15種類ほどの野菜を無農薬か、有機栽培で育てている。俳優としてドラマなどに出演しながら、少なくとも週に1回は車や電車で畑に来る“通い農業”のスタイルだ。

農業を始めたのは名投手で知られ、体づくりに熱心だった父(プロ野球ソフトバンクの前監督、工藤公康さん)と、それを食事面で支えた母という、食にこだわる家庭環境も影響したという。俳優になって以降も、食や農業の関係者と合うことも多く、農業への思いを温め続けていた。

思いを形にするきっかけとなったのは、コロナ禍。撮影休止などで仕事の手を休める間、改めて農業への思いに向き合った。

「お金や時間に余裕ができたら、と言っていたら、いったいいくつになってしまうんだろうと。リスクをとらないことがリスクだと思ったんです」。畑を探し始めた。

農作物の魅力をSNSで発信

農業を始めて2年目の現在、とれた農作物は家族やお世話になった人で食べたり、出荷したり。

農大在学時から感じていた課題の一つが「農業について発信する人の少なさ」だ。今は知名度を生かしてインスタグラムを通じて畑の様子などを配信、ファンに向け農業の楽しさや農作物の魅力を伝えている。

「僕は農業についてSNSなどで発信するから、いろいろな方々から声をいただきやすいんですけど、他の農家さんもこうして『人々の声』が聞こえる環境があればと思います」

野菜は「自分の好きなもの」を作る。俳優業と農繁期とがなるべく重ならないようにすることなどを考慮して、1年目と品種を変えてみたりと試行錯誤を続けている。そんな経験から、「なるべく手間のかからない野菜を作れば、(農業に携わりながら別の仕事などとの両立をはかる)“半農半X”のスタイルでさまざまな人が農業に参加できるようになるはず」と話す。

今後も農業と俳優業との両立を続け、さらには農業体験会などを開く構想も温めているという。後継者不足や、生産コスト増を価格転嫁しづらい現状など、日本の農業にまつわる課題も肌で感じるようになった。

「例えば、規格外の野菜ってありますよね。今は取り扱うスーパーもありますが、まだまだ価格も安い。そうした規格外品をもっといい価格で売れるような仕組みがあれば」。挑戦は始まったばかりだ。

■10月16日にオンラインイベント開催

産経新聞社は、「国消国産の日」である今月16日に、工藤さんも出演するオンラインイベント「考えよう!食と農のみらい お気に入りの食材を見つけようSpecial」(協力・東京農業大学)を開催。イベントはYouTubeLiveで生配信され、誰でも視聴が可能だ。

第1部では、工藤さんと、東京農業大学副学長の上岡(かみおか)美保教授、移住・交流推進機構(JOIN)の渡邊明督(あきまさ)事務局次長が日本の農業や地方の現状について語り合う。

第2部では埼玉、沖縄、香川、青森の4地域から生産者らが出演し、食材の魅力などについて紹介する。

配信は16日午後1時開始予定。

>オンラインイベント開催ページ

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